2008年に公開された劇場用アニメ。DVDレンタル。
「時をかける少女」で脚光を浴びた細田守監督のオリジナル最新作です。
※セルDVD/BD及びレンタルDVDはリリース済
今より少しだけ未来。コンピューターネットワークが多少進化した世界。
世界中で十億の人間が利用するOZという仮装空間サービスが存在した。
OZは高度なセキュリーで守られていてそこから現実の機能を利用できた。
OZだけで生活や仕事の多くが成り立ち、まるでもう一つの現実であった。
そんなOZのメンテナンスのバイトをしている小磯健二がこの話の主人公。
健二は憧れの夏希先輩のお願いの田舎へ一緒に行くバイトを引き受ける。
一緒の旅行に舞い上がる健二が到着した家はそれは見事なお屋敷だった。
お屋敷には曾祖母の誕生日を祝うために夏希の親戚たちが集まっていた。
そして健二のバイトの真の目的が夏希の恋人のふりだと知らされるのだ。
曾祖母の栄に認められ親戚たちに受け入れられ健二は恐縮してしまう。
複雑な気分で寝付けない健二の携帯に真夜中に奇妙なメールが届いた。
謎の数列だけのメールを挑戦状と思った健二は数列を解いて返信をする。
翌朝、ニュースは健二をOZを混乱に陥れた犯人として報道していた。
第一印象としては主人公の健二がずいぶんと頼りないだったかな。
勝手なイメージとして主人公はもっと頼もしいと思い込んでいたので。
でも見終わった後には意外に頼もしかったと思えてくるのが不思議です。
ラストシーンでも相変わらずちょっと頼りない感じではあるんだけど、
最後まで決して諦めなかったのと、やる時にやってくれたのがあって。
ただの友達としか見てなかった夏希が意識しちゃうのもわかると言うか。
人を好きになる切っ掛けってこんな感じだよな、とか見てて思いました。
男主人公でちゃんと好かれるプロセスを描いたアニメって少ないんだよ。
(わりとまともな内容のは最初から相手に好かれてるのが大半だし)
主人公が最初から凄いわけではなく、いきなり凄くなるわけでもなく、
その時に自分のできることを精一杯やって事態を解決したのも好感触です。
もちろん、あの数列から答えを導き出すのは凄い能力だとは思いますが。
でもこの作品はそれだけで全てが解決するわけではないのがポイント。
みんなのちょっとだけ優れた能力を結集することで解決に導くのです。
ネットの化物に人の繋がりという生身の関係で対抗するのがイイのです。
栄ばあちゃんが凄い人たちに電話するところなんかカッコよすぎです。
曾祖母の元に集まる親戚たちがまさに人の繋がりを象徴してるわけです。
濃密な現実の描写がちょっと懐かしい日本の光景なので心地よいのです。
この作品のストーリーの仕掛け(構造)はわりとシンプルと言えます。
凄い凝った構成になってた前作(時かけ)に比べると単純明快な感じです。
ある一点に向けけひたすら盛り上がってドカーンと突き抜ける感じです。
シンプルといってもすんなり行かず紆余曲折してハラハラするわけです。
誰にもわかりやすくて感動しやすくてカタルシスを得やすい作品です。
そーいう意味では時かけよりもこっちの方が一般向きかもしれないね。
シンプルなストーリーにディティールを濃厚に肉付けしてあるのです。
ハリウッド映画なんかがよく使ってる教科書的なアプローチと言えます。
それらと違うのはディティールの肉付きがいかにも日本的というところ。
日本が舞台だからではなくて掘り下げ方がいわゆる邦画っぽいのです。
(最近のテレビドラマ的な映画とはちょっと違う)
具体名は出さない(出せない)けど伊丹十三さんのあの映画を彷彿したよ。
国内外のいろんなエッセンスを取り込んだ日本のアニメならではだなと。
大半はリアルなんだけど時には嘘っぽい大胆さがあるのも楽しいすね。
いきなり和風の民家にスーパーコンピュータを持ち込んでみたり、
山の中に漁船を持ち込んでみたり、自衛隊の機材を持ち込んだりと。
無いだろうとは思いつつ、でもあってもいいと思えるバランス感が絶妙。
ひたすらリアルだと地味だし、あまりに嘘っぽいと共感できないから。
確かに「うちの男連中はバカばっかり」と言いたくなるよ。いい意味で。
うちの男連中はバカばっかりも含めて、みんなの力を結集するわけです。
つまり健二以外の誰かが重要な役割を担うシーンもあるわけです。
特に夏希はクライマックスの重要なポイントで見せ場がやってきます。
得意の花札勝負でラブマシーンと対戦して相手を追い詰めていくのです。
しかしここでもすんなり行かずに負けてしまって絶体絶命のピンチに。
その時に起こった出来事は奇跡と言うか、人と人とが繋がったシーンで、
この映画の中で最も感動的な瞬間でした。